第9回ホルモン療法で体重の増加が気になる
乳がん患者さんへ

川口 美喜子
大妻女子大学 家政学部食物学科 教授
管理栄養士

「体重を増やさないように」とは言われるけれど…

ホルモン療法を受けている乳がんの患者さんから、体重増加についての相談を多く受けます。 体重が増えやすくなるホルモン療法を受ける際、 医師からは「なるべく体重を増やさないように」と言われますが、とはいえ、 食事に関する具体的な指導を受けたことがある人はほとんどいないのではないでしょうか。

適正体重を知り、維持することを目標に

適正体重を知り、維持することを目標に

ホルモン療法では、食欲が増進して体重が増えたり、薬剤によっては脂肪の吸収が促進されやすくなったり、中性脂肪値が上昇しやすくなることがあります。
こうした薬剤の特性を知り、単純に体重を落とすことを目標とするのではなく、「適正な体重」や適正な体脂肪を維持することが大切です。
ところで、適正な体重とはいったいどのくらいのことをいうのでしょうか? 次の式で求めることができるので、まずはご自分の適正体重を確認しましょう。

適正体重(kg)= 身長(m)×身長(m)×22

つまり身長160cmの人なら1.6m×1.6m×22で、約56kgということになります。
適正体重(kg)±10%程度の体重を維持することを目標にしましょう。 治療に入る前から適正体重をオーバーしている方は特に注意が必要です。 また反対に、すでに適正体重やそれ以下の状態にあり、体重を落とす必要がないのに、 過度の糖質制限など無理のある食事制限をしている方もいます。 まずは自分の適正体重を知り、それを維持することを大切に、体重をコントロールしていきましょう。 また、1週間で1.5~2kg増加するような場合は注意が必要です。

体重のコントロールは多くの乳がん患者さんに共通の悩み

体重のコントロールは多くの乳がん患者さんに共通の悩み

私が携わっている「マギーズ東京」(第1回参照)での栄養支援には、乳がんの患者さんが相談にいらっしゃることが多く、 しばしば「体重のコントロール」をテーマに食事のアドバイスを行っています。

たとえば、日常生活の変化によって消費するエネルギー量が減っている人。 乳がんの診断を受け、治療のために退職したり仕事内容を軽減した場合は、 通勤や仕事で使っていた消費エネルギーが減ります。 このように生活状況が変化した場合は、間食を減らしたり、主食の量を毎食5口ほど少なくするなどして、 通勤の準備と通勤に消費していた200~250kcalを減らします。

ほかにも、体を安静にしなくてはという気持ち、体を動かすことが不安、一人で歩くことが不安、 食べると落ち着く、甘い物が欲しくなるといった話題も多く出ます。 活動量が減っても食べる量が治療前と同じだったり、間食が増えてかえってエネルギー摂取量が増えている場合も多くあります。 一方、体重を維持している人のなかには、甘いものをがんばってやめたらそれだけで体重が減ったという人や、 時間ができたのでジムに通って体を動かす習慣ができたという人もいます。

マギーズ東京での食事についての語らいでは、こうした生活の変化についてのお話や、 家族の食事を準備しながら自分の分をつくるという参加者の方から、エネルギーを抑えつつも満足感のある料理のヒントを、 私のほうが教えていただくこともあります。

糖質は制限したほうがよいの?

食事制限を行ううえで、近年多くの人が実行しているのが糖質制限です。
「体重コントロールが必要と聞いて、すぐにご飯を食べるのをやめました。育ちざかりの子どもがいるのでご飯を炊きますが、私はまったく口にしません。もうご飯の味を忘れてしまったかも」
「ご飯を食べても太らない方法があれば食べたいですか?」
「どうかしら。本当に体重が増えないのであれば、毎日の食事の時間も気持ちが楽になるかもしれないですね」
そんな会話をすることもあります。

白飯などの主食は体に必要なエネルギーを補給するために必要なものです。 活動量が減れば、もちろん摂取エネルギーも減らさなければなりませんが、決してゼロにする必要はありません。 ゆっくり消化吸収される玄米ご飯を使った料理、少量のご飯でも満足感のある料理を味わってみましょう。

こんなレシピ、どうかしら?

そこで今回は、低エネルギー(低カロリー)食材の代表格ともいえる緑豆春雨や、 少量でも「食べた感」を得られる雑炊、白米に比べ糖質の吸収が穏やかな玄米を使ったアレンジ炒飯など、 エネルギーを抑えながら、主食を上手においしく摂るためのレシピを紹介します。 治療をしっかり継続していくためにも、食事の楽しみを忘れずに、適正体重を目標にした体重コントロールをめざしていきましょう。

おことわり

「がんとともに生きる~「食」は笑顔のみなもと~」に掲載の記事は、正確性、安全性に細心の注意を払って作成しておりますが、本コンテンツに記載された内容の実施等によって生じたトラブル、事故、障害等の事態に対しては、一切の責を負いかねます。食事制限の必要性や内容、療養上の注意点は個々の患者さんによって異なるため、ご心配な点等は必ず主治医や医療従事者に相談のうえ、指導に従ってください。