第8回“病身によい食事”を追求することで、
食べることを楽しめなくなってしまった患者さんへ

川口 美喜子
大妻女子大学 家政学部食物学科 教授
管理栄養士

がんと食事の関係

ある日のことです。私が知人と居酒屋で食事をしていると、隣の席からこんな会話が聞こえてきました。
「Aさん、少しやせたよね。顔色もよくない感じ…」
「がんの治療に通っているらしいよ。食事に誘ってみようと思うんだけれど、食べ物に何かこだわりがあるのかもと思うと、声をかけようかどうか悩んでしまって」
「がん患者さんって何を食べたらいいのかわからないよね…」
私は偶然耳にしたそんな会話を聞きながら、がん治療を継続しながら単身赴任で働いている男性Bさんから食事相談をお受けしたことを思い出しました。

「食べてはいけない物」を知りたいと話すBさんとの出会い

「食べてはいけない物」を知りたいと話すBさんとの出会い

Bさんの主な相談内容は、次のようなことでした。
「料理は得意ではないが自炊をしています。再発予防と体力低下防止、
特に筋肉を落とさないための食事について知りたいと思っています。
それから、“食べてはいけない物”を教えてほしいのです」

体にとってよい食材、体力を落とさないための食事について聞かれることは多いのですが、なかでもBさんが最も知りたいと望んだことは、「がんの患者が“食べてはいけない物”は何か」ということなのでした。

積み重ねてきた食への思いや過程を尊重しながら

積み重ねてきた食への思いや過程を尊重しながら

Bさんご自身がこれまで独自に調べたり考えたりして、食べてはいけないと思っている食品には、四つ足動物の肉、食塩、白飯、牛乳、バター……など数多くの食品があり、ご自身に課している食事制限はかなり厳しいものでした。そのため、日々の食事は3食とも同じ食材を使った同じ献立を長い間続けているとのことでした。

職場の同僚から食事に誘われても、食べる物がないから、皆に迷惑がかかる気がして一緒に出かけられない。とはいえ、食べたい物を楽しく語らいながら食べることができれば、それがどんなに素晴らしいことか、という思いはBさんにもありました。

私は、Bさんががんの治療中に食事に向き合おうとして、食の楽しみやバリエーションよりも、いつも同じ食事であっても病身にとってよいと考える生活をするための栄養摂取や食事方法にたどり着いたのであれば、その過程は尊重したいと思いました。

その上で、食べることに楽しみを求める気持ちは、生きている人がもつ自然な欲望であること、職場の方々が望んでいるのであれば、共に食事をするということは心身を癒やすのにも必要なことであろうとお話ししました。
さらに、単身赴任の生活でも簡単につくることができ、体力や健康を維持するのに役立つと考えられる食事をいくつか提案しました。

するとBさんは、「これまでの食事はつらかった」と正直な気持ちを話し始めました。そして「これまで自分がこだわってきたことすべてを変更するわけではないが、食べることをもっと楽しんでもいいんですよね」と自分に念を押すように語られました。

こんなレシピ、どうかしら?

そこで今回は、Bさんのように、料理があまり得意でないものの、治療を続けながら単身で生活されている方にもつくりやすいレシピを紹介します。
1品で複数の栄養素が摂取でき、また、つくり置きや冷凍保存がしやすいもの、朝など時間のないときでも食べやすいものを考えてみました。市販品を一部使用するのも調理を簡単にする大切な手段です。手間なくしっかり食べるためのヒントになれば幸いです。

おことわり

「がんとともに生きる~「食」は笑顔のみなもと~」に掲載の記事は、正確性、安全性に細心の注意を払って作成しておりますが、本コンテンツに記載された内容の実施等によって生じたトラブル、事故、障害等の事態に対しては、一切の責を負いかねます。食事制限の必要性や内容、療養上の注意点は個々の患者さんによって異なるため、ご心配な点等は必ず主治医や医療従事者に相談のうえ、指導に従ってください。