第7回味覚障害があり食欲が出ないものの、
明日の仕事のために食べておきたい患者さんへ

川口 美喜子
大妻女子大学 家政学部食物学科 教授
管理栄養士

仕事を継続しながら続ける治療と食事

一人暮らしで、仕事をしながら外来で化学療法を受ける方も多くなりました。投薬の当日から数日は、消化器症状や味覚障害などで体調がすぐれないこともあります。そのような日々にも対応できる食事のアイデアを知れば、生活の質を少しでもよくできる可能性があるのではないかと思います。

「明日のために食べたい」と願う患者さんとの出会い

口から食べることに困難を抱える患者さんとの出会い

ある日、介護の仕事に携わる40代の女性にお会いしました。小柄で華奢な印象のその女性は、口元を緩ませた柔らかな表情が素敵な方でした。相談内容は次のようなことでした。

「介護の仕事は望んで就いた仕事なので、日々を楽しく、訪問先の利用者の方とも明るく過ごしたいと思っています。体力を使う仕事なので、日々の食事は明日のためにも食べておかなければという気持ちがあります。ただ、治療後は味覚がなくなり、食べ物のおいしさを感じません。買い物に行っても食べたいと思うものがなく、手に取って購入したいと思う気持ちになりません。食事の準備を始めてもまだ食べたい物が思いつかず、結局は何となくある物を食べていますが、おいしくないのです」

そのような悩みを打ち明けた女性の表情は、少しつらそうにみえました。さらに、「一人暮らしですから、自分の身体は自分で守らなくてはなりません。そして、明日の仕事の体力をつけなくてはと、そればかりを考えています」と体力が低下していくことに不安をもたれていました。

私は、仕事を終えた後の楽しい食事、今日の自分への労わりのメニューを「いただきます」「ごちそうさま」と食べることができ、体力も回復できれば、この方の感じているつらさを少し解消できるのではないかと感じました。

一人ひとり異なる味覚障害の症状

軟らか食・ペースト食だっておいしくつくれる

化学療法後に現れる味覚障害は、一人ひとり症状の出方がまったく違うため、味覚の変化が現れたときに、食べられる物を探りながら、食べたいときに食べたい物を食べて、食欲低下を補うようにします。

とはいえ、仕事に就いている方にとって、食事ができる時間は限られていて、「食べたいとき」に食事をすることは難しいことが多いものです。ですから、「夕食をしっかり食べる」ことがひとつのヒントになるものと思います。

相談を受けた女性の味覚変化は、食べ物の味を感じにくくなる「味覚減退」と呼ばれる症状でした。味覚が減退する方でも、比較的感覚が残りやすい味はあり、酸味や甘酸っぱい味は減退しにくいため、好まれる方が多いです。

そこで私は、仕事を終えて帰宅したら、ひとまず一杯「レモネード」を飲むことをお勧めして、作り方をお伝えしました(レシピはこちら)。女性は「それなら飲めそうです!」とにこやかに答えてくださいました。

明日を不安なく迎えるための食事を

味を感じにくいため、食べることをあきらめかけ、メニューを思い起こすこともできなくなるという悩みに対しても、いくつかのレシピを提案し、お料理談義となりました。女性はいつの間にか笑い声と笑みに満ちた顔になり、「試してみたいメニューを教えていただきました。まず今夜はレモネードからです!」とうれしそうにお話されました。

明日も訪問先の利用者さんのそばで、楽しく仕事ができるといいなと思いながら、その背中を送り出しました。

川口美喜子(かわぐちみきこ)プロフィール

川口美喜子(かわぐちみきこ)プロフィール 大妻女子大学 家政学部 食物学科教授、管理栄養士、医学博士。
専門は病態栄養学、がん病態栄養並びにスポーツ栄養。2005年5月島根大学医学部附属病院NST(栄養サポートチーム)の構築と稼働、2013年4月より現職。

こんなレシピ、どうかしら?

今回は、味覚障害があっても比較的感じやすい酸味や甘酸っぱい味をベースにしたレシピを紹介します。
レモネードはつくり置きができるので、仕事から帰ってまずはほっと一杯…というときにも便利です。

おことわり

「がんとともに生きる~「食」は笑顔のみなもと~」に掲載の記事は、正確性、安全性に細心の注意を払って作成しておりますが、本コンテンツに記載された内容の実施等によって生じたトラブル、事故、障害等の事態に対しては、一切の責を負いかねます。食事制限の必要性や内容、療養上の注意点は個々の患者さんによって異なるため、ご心配な点等は必ず主治医や医療従事者に相談のうえ、指導に従ってください。