第5回治療を継続しながら家事を担う患者さんや
ご家族に伝えたいこと

川口 美喜子
大妻女子大学 家政学部食物学科 教授
管理栄養士

外来化学療法が主流となった昨今は、日常生活のなかで、患者さんが治療を継続しながら、家族の食事の世話も担っているケースがしばしばあります。あるいは独身や独居で、自身で食事の準備をしなければならなかったり、サポートしてくれる人が身近におらず、体調不良のときの食事に不安がある場合もあるでしょう。最近は宅配弁当などのサービスも充実してきましたが、家庭料理が身体と心にもたらす豊かさは、やはりかけがえのないものです。

今回は、患者さん自身や家族の日々の食事に関して、よく聞かれるつらさや心配ごとを紹介するとともに、それに対するひとつの答えとなるような食事のとらえ方とレシピをお伝えしたいと思います。

家事を担う立場の患者さんが抱えがちな苦悩

私がこれまでお会いしてきた患者さんの中には、診断された病気や、その治療に伴う有害事象(副作用)によるつらさ、また自身が病気であるがゆえに、家族(パートナーや子どもたち)を食で健康にしなければ、と過度な制限や条件をつけたメニューや栄養について考えすぎてしまう方がいます。
また、巷のさまざまな情報に翻弄され、食事療法や自己判断で行う過剰な食事管理に自分自身が追い詰められ、「やらなければならない」「でもつらい」の狭間でどんどんつらさが増していく方にもお会いしてきました。
食材や調味料、調理器具に過度なこだわりをもち、その購入のために経済的な負担が大きくなってしまったり、調理過程で時間がかかりすぎたり、あるいは食材の入手や調理方法が難しく、そのせいで混乱をきたしてしまった人もいます。

患者さんの家族が抱えがちな苦悩

患者さんの家族が抱えがちな苦悩

患者さんの家族においても、健康を取り戻すためのあらゆる情報を取り入れたいと一生懸命になりすぎて、「妻は朝から晩まで、台所に立ち尽くしています」「インターネットを開いては、効果のあるものを探しています」という話を聞くことがあります。家族にとっても、いつのまにか「食事」が、治療を目的に口にして体へ吸収されていく「食べる物」になってしまい、おいしさや食べる楽しみを味わうためのものでなくなってしまうのです。

たとえば、治療を継続している夫の腹水が溜まらないようにと、塩分やたんぱく質を制限した食事をつくることに一生懸命になりすぎて、夫から「食事が楽しくない」と言われてしまい、その言葉の意味を理解できないと話す女性から相談を受けたことがあります。
この方に対して私は、「朝食を制限して、昼食はご主人の“食べたい”という思いに寄り添ってあげてください。楽しい食事が心と体を癒やし、つらい治療にも臨むことができるのですから」とアドバイスしました。
女性は「それでいいんですね。毎食きちんとしなければと思いながらも、仕事をしながらの食事の支度は苦痛でした」と話し、心から安堵したような表情で涙を流されました。

「食べる喜び」をつなぐ食事を

「食べる喜び」をつなぐ食事を

家族にとって、「食べる喜び」をつなぐことはとても大切なことです。でも、家族の中に病気治療中の人がいると、時として「喜び」よりも「食べること」を厳格にすることが治療の支えのようになって、「家族を守る食事をつくらなければ」と思い詰めてしまいがちです。

そんなときこそ、大きな負担なく気軽につくることができ、家族がいつまでもおいしく食べられるような、簡単な食事を準備しましょう。患者さん自身が家事を担う立場である場合には、家族にもつくり方を覚えてもらえるように、一緒に買い物に出かけ、一緒に楽しく調理してほしいと願います。笑顔で囲む食事こそ、時に病に立ち向かう大きな力になる――そのことを、ぜひ忘れないでほしいと願います。

川口美喜子(かわぐちみきこ)プロフィール

川口美喜子(かわぐちみきこ)プロフィール 大妻女子大学 家政学部 食物学科教授、管理栄養士、医学博士。
専門は病態栄養学、がん病態栄養並びにスポーツ栄養。2005年5月島根大学医学部附属病院NST(栄養サポートチーム)の構築と稼働、2013年4月より現職。

こんなレシピ、どうかしら?

今回は、家族で一緒に調理することもイメージしながら、煩雑な手順がなく気軽につくれるスープ、サラダ、焼き物のレシピを考えてみました。
「鮭と旬野菜のグリル」では、つくるのも、後片付けも楽にする調理器具(グリルプレート)を使用しています。こうした便利で手間いらずの調理器具を上手に取り入れることで、食事の支度や片付けが思う以上に楽になることもあります。
季節の食材をたくさん取り入れて、楽しい食卓を囲みたいですね。

おことわり

「がんとともに生きる~「食」は笑顔のみなもと~」に掲載の記事は、正確性、安全性に細心の注意を払って作成しておりますが、本コンテンツに記載された内容の実施等によって生じたトラブル、事故、障害等の事態に対しては、一切の責を負いかねます。食事制限の必要性や内容、療養上の注意点は個々の患者さんによって異なるため、ご心配な点等は必ず主治医や医療従事者に相談のうえ、指導に従ってください。