第4回食べるときに息苦しく食欲がわかない
肺がん患者さんへ

川口 美喜子
大妻女子大学 家政学部食物学科 教授
管理栄養士

食べることをあきらめてしまった父を思う家族との出会い

食べることをあきらめてしまった父を思う家族との出会い

肺がんのため化学療法を継続中の父親の食事について、息子さんから相談を受けました。
もともと食べることが大好きなお父さんでしたが、化学療法を始めてから5か月間で体重が27kg減少し、味覚障害や食欲不振のために、食べることをすっかりあきらめてしまったのだといいます。食べることをあきらめたお父さんを前に、食事の支度をするお母さんも気力を失い、食事を工夫する気持ちが失せてしまっているとのことでした。
「もう一度、父に食べる喜びを感じてもらいたい。一口でもいいから食べて体力を取り戻してほしいんです」
そのためのアドバイスがほしいというのが息子さんからの相談内容でした。

体重減少は筋肉の低下を伴い、また息切れなどの呼吸困難や炎症反応があると、食事の量はさらに減少し、食べようとする気持ちと食べる力、飲み込む力も弱まります。倦怠感の強いときもあるでしょう。私は、息子さんの言葉から思い起こされるお父さんのお姿や、ご家族の思いを受け止めながら、食事の支援ができるように思いを巡らせました。

食べる喜びを取り戻すためにできること

患者さんは、食欲がないときに食べ物がたくさん並ぶと、心が重くなり、食べる気持ちが失せることもあります。
ですからまず、食卓の食事の量や品数を減らすことが大切です。そして、切り身などは小さくして、盛りつける量も少なくします。たとえば、鶏のから揚げや魚の切り身は小さめの一口大にして量も減らし、彩りよくきれいに盛りつけます。

また、これまで食べてきたもので、おいしかったもの、懐かしい味を聞き出して書き出してみます。書き出す際には、食に関わる家族共通の思い出やエピソードを語り合うと、それが食べるきっかけになることもあります。たとえば「運動会のときはいつもお母さんがいなりずしをつくってくれたよね」などと話しているうちに、いなりずしが食べたくなり、口にすることができるときもあるでしょう。このようなメニューを「きっかけ食」と呼んだりします。

食べるための“準備”も忘れずに

口の中を清潔にすると食欲がわいてくるものです。誰でも口の中がねばついた状態では食べたくないでしょう。ですから、食べる前に口の中をきれいにすることも大切です。
また、横になって体を休めていたあとは、起き上がってもすぐには食べられないものです。運動に準備体操があるように、食事を摂る前も体をしっかり起こして“食べる口”“食べる体”になるよう準備しましょう。
たとえば甘夏、いちご、メロン、ぶどうなど季節の果物を一口大に切って生のまま凍らせて出してみましょう。あるいは、すりおろしたりんご(はちみつや砂糖、レモン汁を加えてもよい)を薄くのばして冷凍し、ひとかけを口に入れてみましょう。唾液が出て“食べる口”の準備になります。

ほかにこんな工夫も…

ほかにこんな工夫も…

相談者である息子さんにお会いしたのは早春の頃でした。そこで、暖かい日には、小さなおむすびと一口大のおかずを詰めた花見弁当を持って、お父さんと一緒に近所に出かけてみることを提案しました。いつもと違う場所で季節を感じながら、彩りのきれいな小さなお弁当を広げるのも、気分転換になって食が進むきっかけになるでしょう。
また、食べにくいときには、食事の時間に構えて食事を摂ろうとしなくてもよいのです。間食として、紅茶にジャムを入れたり、チョコレートを3片ほど食べたり、みかんの缶詰や一口ロールサンド(レシピはこちら)を冷やしておいてちょっとだけ食べたり……。食べられそうなときにちょこちょこ食べる、という食習慣を生活に取り入れてみましょう。

最後に栄養剤の活用方法を。最近の栄養剤はとてもおいしくなりましたから、ぜひ一度試してみるとよいと思います。1パックで1食分のエネルギーと栄養素を含むものもあります。そのままで飲みにくい場合には、冷やしたり、牛乳やインスタントコーヒー、紅茶と混ぜて好みの味にアレンジしたりすると、飲みやすくなります。フレンチトーストの卵液の代わりに利用するのもよいでしょう。

息子さんにお会いしてから数か月後に届いた手紙には、「ご指導により、しばらく、父は普通食を食べられるようになりました。大変に感謝しております」としたためられていました。

川口美喜子(かわぐちみきこ)プロフィール

川口美喜子(かわぐちみきこ)プロフィール 大妻女子大学 家政学部 食物学科教授、管理栄養士、医学博士。
専門は病態栄養学、がん病態栄養並びにスポーツ栄養。2005年5月島根大学医学部附属病院NST(栄養サポートチーム)の構築と稼働、2013年4月より現職。

こんなレシピ、どうかしら?

今回は、少ない量でもエネルギーを確保できるレシピや、食べやすい形態の簡単レシピを紹介したいと思います。
少量でエネルギーを確保するのに便利な食材に、「中鎖脂肪酸(MCT)」があります。MCTには、液体状とパウダー状のものがあり、無味無臭の油で、使用することで脂肪が効率的にエネルギーとなります。少量しか食事を摂れないときに、摂取エネルギーを手軽にアップさせることができるので、上手に活用しましょう。

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おことわり

「がんとともに生きる~「食」は笑顔のみなもと~」に掲載の記事は、正確性、安全性に細心の注意を払って作成しておりますが、本コンテンツに記載された内容の実施等によって生じたトラブル、事故、障害等の事態に対しては、一切の責を負いかねます。食事制限の必要性や内容、療養上の注意点は個々の患者さんによって異なるため、ご心配な点等は必ず主治医や医療従事者に相談のうえ、指導に従ってください。