第3回食べて少しでも体力をつけたい、体重を増やしたい
胃切除術後の患者さんへ

川口 美喜子
大妻女子大学 家政学部食物学科 教授
管理栄養士

「太るために食べたい」胃切除術後の患者さんとの出会い

「太るために食べたい」胃切除術後の患者さんとの出会い

胃切除術後のがん患者さんの食事・栄養の悩みごとで多いのは、体重の回復についてです。
「減ってしまった体重を少しでも増やしたい。そのための食事について知りたいです」
「痩せて首や二の腕がしわしわになってしまった。もう少し健康的に見えるように“身”をつけたいのですけれど……」
最近、このような悩みを抱える女性患者さんに続けてお会いする機会がありました。お二人が「太るために食べたい」という気持ちになるまでには、きっと時間がかかったに違いありません。術後の食事において何度もつらい経験をしながら、ようやく「食べること」への要望を口にすることができるようになったのだろうと思いました。

胃切除術後の患者さんに起こる不調

胃を切除してから食べる力を回復するまでには、「ダンピング症候群」と呼ばれる食後の不快感、気持ち悪さを何度も経験し、なんとか自分に合った食べ方を工夫してこられたことでしょう。また、術後、口からの食事摂取ができるようになっても、通常の食事が摂れるようになるまでの数か月間は幾度となく不調に陥り、食事をすること自体が怖いという経験もされながら、徐々に食べることができるようになる方もいます。

ある胃切除後の患者さんは、食後にベッドに座り込み、頭をだらりと下げ、憂鬱そうな顔で「食べた物が下りていかない。いつも詰まった感じがして、こうやってじっとしていないとまったくだめだ」と話し、食べた物の逆流を防ぎながら、しばらくは毎日のようにただ静かに耐えていました。

手術前、もちろん医療者から術後の食事についての説明は行われますが、消化や吸収の機能が低下し、術前には想像もしなかった症状が起こることがあります。お腹には膨満感が現れて食欲が低下し、食事の摂取量は大幅に減り、胸やけや逆流、下痢が起こるなど、一人ひとり思わぬ症状が出現し、食事への不安が募る方もいます。私は、こうした不安の軽減や早期の体力回復のためにも、診断されたときからぜひ管理栄養士と定期的な相談の機会をもってほしいといつも願っています。

食べる意欲を失わない工夫を

「太るために食べたい」胃切除術後の患者さんとの出会い

さて、少しでも食べて体力を回復したり、体重を増やすことを考えるとき、食べることに不安を感じたり、食べる意欲が低下しないような工夫や、起こりうる症状への対処・予防が必要になります。たとえば次のようなことが挙げられます。

  • 食べ物の詰まり症状を起こしやすい方は、硬い食材や噛みきれない食材は避けるようにしましょう。
  • 水分を先に摂取すると膨満感を覚え、エネルギーの高い固形物が食べられなくなります。また、水分を多く摂るとダンピング症候群も起こりやすくなります。消化によいと思われるお粥も同様です。軟らかいご飯をよく噛んで食べるようにしましょう。
  • 水分を摂らなくても食べられる固形物を少しずつこまめに摂るようにしましょう。
  • 術後は消化や吸収のパターンが変化して嗜好が変わったり、味がわからなくなることもあり、特に油っこい物が食べられなくなったりすることがあります。無理をせず、今食べられるもの、食べやすいものを探っていきましょう。
  • 油の種類ではラード、料理では天ぷらなどの揚げ物は控えますが、植物油やバター、生クリームを料理に取り入れ、エネルギーをしっかり摂れるようにします。油や生クリームによっておいしくなる調理(炒め物、スープ)には積極的に使用しましょう。

栄養のバランスも大切に

栄養のバランスも大切に

術後、順調に回復する患者さんでも体重の減少は認められます。術前の体重まで戻すのは難しいとしても、体重の減少をなるべく抑えることは体力を維持するためにも重要です。
ある患者さんは、「体重を戻したいので、ご飯やパン、バナナ、飴などを常に食べています。出先で食べるタイミングがないときには、トイレに行きバナナを食べています」とお話されました。この方は、体重増加を期待するには炭水化物を主体としなくては、という考えであったようですが、大切なことを見失わないようにしましょう。体力をしっかりつけるためには、たんぱく質やミネラルも重要な栄養素なのです。しっかり食べられるようになってきたら、順調な回復が妨げられないよう、バランスのよい食事も大切にしていきたいですね。

川口美喜子(かわぐちみきこ)プロフィール

川口美喜子(かわぐちみきこ)プロフィール 大妻女子大学 家政学部 食物学科教授、管理栄養士、医学博士。
専門は病態栄養学、がん病態栄養並びにスポーツ栄養。2005年5月島根大学医学部附属病院NST(栄養サポートチーム)の構築と稼働、2013年4月より現職。

こんなレシピ、どうかしら?

今回は、たとえたくさんは食べられなくても、体力の回復につながったり、体重の減少を抑えられるように、少量でもエネルギーを摂れる料理のレシピをお伝えしたいと思います。
また、胃切除の後遺症で空腹感を覚えない方や食欲のない方には、食べたい気持ちになれるような、彩りや旬を感じる見た目にもきれいな料理をお勧めしています。きれいでおいしそうな料理には、誰もが自然と食欲を覚えるのでしょう。おいしいものは食欲が落ちているときでも食べられることがあります。

おことわり

「がんとともに生きる~「食」は笑顔のみなもと~」に掲載の記事は、正確性、安全性に細心の注意を払って作成しておりますが、本コンテンツに記載された内容の実施等によって生じたトラブル、事故、障害等の事態に対しては、一切の責を負いかねます。食事制限の必要性や内容、療養上の注意点は個々の患者さんによって異なるため、ご心配な点等は必ず主治医や医療従事者に相談のうえ、指導に従ってください。