1.動脈硬化症とは
血液は、酸素や栄養素を体の隅々まで運ぶ働きをしています。
動脈はその中でも心臓から送り出される血液を全身に運ぶ役割を持つ血管です。
わかりやすく血管をホースにたとえると、弾力のあるホース(血管)であれば、その中を水(血液)が滞りなく流れていきます。しかし、弾力を失った古いホース(血管)ではホースの壁(血管の壁)がかたくなって伸縮しなくなり、水(血液)の中にもゴミ(コレステロール)などがたまって、ホース(血管)が狭くなったり詰まったりします。ホース(血管)が狭くなると、中を流れる水(血液)の流れも悪くなり途切れたりしてしまいます。
動脈硬化とは、全身に血液を送る血管にコレステロールがたまり、血液の流れが悪くなっている状態です。
原因
動脈硬化の原因はいくつかありますが、喫煙・脂質異常症・高血圧・肥満・運動不足などの生活習慣の乱れによって、血液中のコレステロールがドロドロの粥状のかたまりとなり血管をふさいでしまうこと、また細い血管の場合は加齢や高血圧などによって、血管の壁の弾力が失われ血管が破れやすくなることなどが考えられます。
できやすいところ
大動脈・心臓・脳・腎臓・手足の動脈
2.判断基準
動脈硬化症そのものを判断するための基準となる数値は明確にはありませんが、コレステロール値や血圧など危険因子を測定し、さまざまな検査を組み合わせて動脈硬化症のリスクや程度をチェックします。
一般的に行われる検査は以下のような検査で、主に心臓や脳、足などに動脈硬化が起こっていないかを調べます。
●心電図検査
●眼底検査
●上腕・足首の血圧の測定
動脈硬化が起こっている部分のさらに詳しい状態を知るためには、エコー検査やMRI、血管造影検査を行います。
3.リスク
動脈硬化は子どものころから始まっており、年が経つにつれて徐々に進行していきます。
しかし、やっかいなのが自覚症状はほとんどなく、症状が進んで血管が細くなったり詰まったりすることで、初めて胸の痛みや頭の痛みなどを感じ症状を自覚する場合が多いことです。
心臓で動脈硬化が起こると、心臓の筋肉に栄養が行渡らなくなり、狭心症や心筋梗塞などの心疾患を引き起こします。
脳では動脈硬化が進むことによって脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの脳血管疾患の原因の一つとなります。
腎臓には血液をろ過し尿をつくる糸球体という器官がありますが、そこに動脈硬化が起こった場合、血液をろ過して老廃物を排出する機能が低下し、むくみが出てしまいます。症状が悪化すると腎不全を起こす場合もあります。
人口動態統計の死因順位によると、心疾患は2番目、脳血管疾患は4番目に多い数値となっており、早めに動脈硬化の治療を行わないと、後遺症をもたらしたり命に関わったりする場合もあります。医師の指導を受け改善に努めることが必要です。
*引用・参考:厚生労働省「平成27年(2015)人口動態統計の年間推計」より加工して作成
4.食事療法のポイント
動脈硬化を改善する食事は、「油・脂」「エネルギー」「塩分」を効率よくカットして、かしこく食べるのがポイントです。
まずは毎日の食生活を見直すことからはじめましょう。
過食を抑え、標準体重を維持
油脂類は効率よくとる
バターやラードなどの動物性脂肪や脂っこいものはとりすぎないことです。
悪玉コレステロールであるLDLコレステロールを増やす原因となります。
とはいえ、むやみに減らすだけではなく、不飽和脂肪酸を多く含む青背の魚や植物油を効率よくとりましょう。
油脂のとり方については脂質異常症を参照してください。
青背の魚を積極的にとる
魚に含まれる脂肪酸、EPA(エイコタペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)は動脈硬化予防の強い味方です。
特にEPAは、血液をかたまりにくくして血栓がつくられないようにする働きがあります。
EPAやDHAは、アジ・イワシ・サンマなどの青背の魚に含まれています。1日1食は青背の魚料理を欠かさないようにしましょう。目安量は80g~100g(切り身1切れ相当)です。
とりすぎてもさほど心配はありませんが、脂質であることには変わりはありません。エネルギーが高くなりそうなときは、調理の油を控えるなどの工夫をしましょう。
野菜・海藻・未精製穀類の摂取を増やす
野菜・きのこ・海藻類には、肉・魚などにはあまり含まれていない食物繊維が豊富に含まれています。
特に野菜は、ビタミン・ミネラルの宝庫であるばかりでなく、食物繊維、β‐カロテン、ポリフェノールなどの抗酸化物質が豊富に含まれています。
食物繊維は1日25g以上が目標です。野菜は1日400g以上、きのこや海藻は適量を1日3食欠かさずにとりましょう。
穀類では、白米よりも玄米、七分づき米(胚芽精米)、雑穀類、また白いパンよりも全粒粉パンなどの方が、食物繊維が多く含まれるのでおすすめです。
単糖を多く含む甘い飲料や菓子類、果物、はちみつなどの果糖のとり過ぎに注意します。
ただし腎臓病で制限がある方は、野菜や果物類の摂取によってカリウムが過剰にならないように気をつける必要があります。
薄味を心がける
塩分のとり過ぎによる高血圧は動脈硬化を進行させます。
1日の塩分摂取量は男性8g未満、女性7g未満、高血圧の方は6g未満が目標です。
濃い味付けはご飯の食べ過ぎ、アルコールのとり過ぎなどにつながります。
まずは薄味に慣れることを目標にしましょう。
薄味で美味しく調理するポイントは高血圧を参照してください。
アルコールの過剰摂取を控える
ビールなどのアルコール類は、1日25g以下に抑えましょう。
とりすぎると血圧や血糖値が上昇し、中性脂肪の値も上昇します。
医師からアルコールを禁止されている方は指示にしたがい守りましょう。
5.料理のひと工夫
1日にとりたい野菜の目安量は350gといわれていますが、動脈硬化予防を含め血管を若々しく保つには1日400g以上とることが理想です。
野菜はビタミン・ミネラルの宝庫であるばかりでなく、食物繊維も多く含まれ、さらには抗酸化力があります。
動脈硬化にはコレステロールの酸化が大きく関わっていると考えられていて、野菜にはこの酸化を防ぐ力があります。
1日にとりたい野菜の目安量は緑黄色野菜で170g、淡色野菜で230gです。
イモやカボチャ以外の野菜はエネルギーが低いので、たくさん食べても動脈硬化を進行させる要素はありません。加熱するとカサが減ってたくさん食べられるうえに満腹感を得ることもできます。
●肉料理には野菜をたっぷりつけあわせましょう。
●噛みごたえのある野菜やコンニャクなどは、低エネルギーで満足感も得られる食材です。
●副菜は緑黄色野菜や海藻・きのこ類などを中心にとりましょう。
●糖分や塩分の含まない野菜や果物のジュースもおすすめです。
調理済み食品を上手に利用
コンビニやスーパーなどさまざまな場所で調理済み食品を買うことができますが、自宅までお弁当を届けてくれる宅配食・通販食というものがあります。
宅配食・通販食にはご飯とおかずがセットになっているもの、ご飯がついていないおかずのみのもの、おかずのみ単品でご自宅のお食事に1品プラスしたり、組み合わせたりするものなど、いろいろなタイプのものが出ています。
「調理が苦手、忙しくて作っている暇がない」という方にもおすすめですし「ご飯は自宅で用意できるのでおかずだけ欲しい」という方にもおかずだけ宅配される食事もありますので、ご自身の生活スタイルに合わせてお選びいただけます。
コンビニ弁当にくらべて手作り感があり、家庭的な雰囲気で食べられるのも嬉しいですね。
カロリーコントロールや減塩のお食事、おかずセットを何日かお召し上がりいただくと、自然と食事の分量や減塩に慣れていただけることでしょう。
いろいろな企業の食事を見比べ、ご自身にあったものをお選びください。
6.食事以外の日常生活での注意点
有酸素運動を行い、生活習慣病を改善させる
動脈硬化の原因は、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が原因であることが多いため、それらを改善するためにも有酸素運動がおすすめです。
ゆっくりと泳いだり、ジョギングをしたりと1日30分以上の運動を週3回以上、または週に合計180分以上行うことを目指しましょう。
心疾患や脳血管疾患などの合併症のリスクがある場合は、医師の指導を受け、無理がない程度の運動を行うようにしましょう。
禁煙を心がける
喫煙は動脈硬化のリスクを高めるといわれています。
煙草を吸わない男性と比較すると、脳卒中で命を落とすリスクが1日1箱以内の喫煙する男性では約1.5倍、1日2箱以上では2.2倍高く、吸わない男性が心疾患で命を落とすリスクと比較すると、1日1箱以内の喫煙者では約1.5倍、2箱以上では約4.2倍高いというデータがあります。
また喫煙とメタボリックシンドロームが重なると、約4~5倍脳梗塞や心筋梗塞にかかりやすくなります。
一人では禁煙が難しい場合は、禁煙外来のある医療機関など専門家に相談してみましょう。
よくある食事相談
Q1.納豆を食べれば血液がサラサラになると聞いたことがありますが、本当ですか?
A1..納豆については、納豆に含まれるナットウキナーゼという酵素に血栓溶解作用があるのではないか、ということでメディアでも情報が流れたことがあります。しかし、残念ながら今の段階では、ナットウキナーゼが血液をサラサラにするということは科学的に証明されてはいません。納豆に頼るだけでなく、野菜や海藻、未精製穀類、青背の魚などをバランスよく食べることを心がけましょう。
Q2.父親が脳梗塞で倒れました。 大事には至らなかったのですが、今後食事で気をつけるべきことについて教えてください。
A2.上記で紹介した食事療法のポイントに加え、水分の摂取が大切です。
脳卒中は室内と室外での寒暖の差が大きい真冬に多く発症するといわれていますが、実は脳梗塞は夏に発症のピークがあります。なぜかというと、夏は汗をかいて水分が足りなくなってしまうため、見合った水分を摂取しないと血液中の水分も減ってしまい、かたまりやすくなってしまうからです。水分は一度にいっきに飲むのではなく、毎回コップ一杯程度の量を、起きたときや食前、食事中、また喉が渇いた際にこまめに飲むようにしてください。
寝ているときは水分補給ができないので、健康な人でも脳梗塞などを引き起こしやすくなります。就寝の2時間程度前に水分を摂取するようにすると、胃に負担をかけることなく安心してお休みいただけるでしょう。
【参考】
●厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(改訂版)」
●厚生労働省(2012年)「生活習慣病を知ろう! – スマート・ライフ・プロジェクト」
●厚生労働省「e-ヘルスネット 情報提供」
●国立循環器病研究センター「循環器情報サービス」
●厚生労働省(2013年)「健康づくりのための身体活動基準」
●日本動脈硬化学会「動脈硬化の病気を防ぐガイドブック」
●白井厚冶、大越郷子:図解でわかる動脈硬化・コレステロール、主婦の友社、2015
●植木もも子、池谷敏郎:動脈硬化を防ぐおいしいレシピ、新星出版社、2014
一日の献立例
(おすすめレシピより)